第9章-4 国営紡績工場建設西野順治郎列伝73回本社から表彰状

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ここで、再度おさらいです。
特別円とは、戦時中にタイ駐留の日本軍がタイ政府から借りた軍費のことで、日本政府は96億円の返済を約束していました。
西野さんは、両国政府と折衝してこの内、約25億円をこのプロジェクトに充てることの了承を得ました。
そして、当時の国軍のチャワリット司令官に働きかけ実現する運びになったのです。
その成功に導いた理由として、国営繊維工場は国防省管轄の国営企業なので、チャワリット司令官の了解が容易に得られた事、が挙げられます。
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この工場完成により、西野さんは次の通り会社から表彰を受けると共に、昭和42年8月20日にタイ政府から勲五等王冠勲章を授与されました。
その表彰内容は「工場建設に関するプラント輸出に於いて、引き合い開始当初よりタイ政府との交渉に当たり、高度の政治的配慮と工作により契約せしめた」です。
すごいですね。
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表彰状
バンコク支店次長西野順治郎
右はタイ国国営紡績工場建設に関するプラント輸出において、引き合い開始当初よりタイ国政府との交渉にあたり高度の政治的配慮と工作により契約せしめた。
よって、ここに表彰する。
昭和42年3月1日
東洋棉花株式会社取締役社長香川英史

表彰状
バンコク支店次長兼TTTM
西野順治郎
右は去る8月20日タイ政府より勲五等王冠勲章を授与されたが、これは日泰両国の友好に貢献したのみならず、当社の名声を内外に宜揚（注:せんよう）した功績は大でありここに表彰する
昭和42年10月10日
東洋棉花株式会社
取締役社長
香川英史

後日西野さんは、ある人から表彰状の「高度政治的配慮と工作について、裏金のことか」と聞かれたとのこと。これに対して「これは特別円を利用したことで、裏金ではない」と答えています。
（注:TTTMとは当時兼務で出向していたTHAI TORAY TEXTILE MILL CO.LTD.の略）
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その後の工場の顛末
従来タイでは綿紡績でしたが、機械が旧式のため生地が厚く、そのため着用すると汗が出てしまうという欠点がありました。
しかし、日本からの最新設備はテトロン入りの混合なので生地が薄く丈夫でした。
この工場の完成後、間もなくタイでは繊維産業の発展が進んで来ました。
しかし、この工場の経営陣は軍人が多く占められていたため、技術革新に付いて行けず財務管理、労務管理、経営管理が不十分で、だんだん赤字が出てくるようになりました。
そこで、操業後30年にして、閉鎖することを決め、関係するすべての建物、設備を敷地内から撤去して、更地にしてしまいました。最新設備を導入しても、時代の流れには付いて行けませんね。
閉鎖は、今から30年位前の話です。このことについて、過去の資料がなく不確実な話であることは免れないです。
なお、このプロジェクトの3年後、日本政府による円借款（ODA）が開始されています。
このプロジェクトの成功が、少なからずその後のODA事業に影響していると見ることができます。

（次回号へ続く）

2023年7月20日タイ自由ランド掲載