【タイの田舎の小さな家から】立正アクシオム論 —最後の鎖国と人類転生計画—第15話 分断される人類——そして迫りくる飢饉の影

第15話 分断される人類——そして迫りくる飢饉の影
1. 横田基地——二つの陣営の誕生
意識転送実験と新人類創造実験の成功から一週間。
横田基地は、明確に二つの陣営に分かれていた。
【第一格納庫:意識転送派】
奈々子、テンジン、チャイ教授を中心とした「意識解放同盟」。
彼らの周りには、数千人の支持者が集まっていた。
末期患者、高齢者、そして「肉体に執着しない」と宣言する哲学者や宗教家たち。
「私たちは肉体の束縛から解放される」
白髪の老教授が演説していた。
「アクシオムでは、個の限界を超越し、集合意識として永遠に生きる。それこそが真の進化です」
人々は静かに頷いた。
彼らの表情には、諦念と同時に、何か超越的な静けさがあった。
【第二格納庫:新人類派】
エレナとテラ・ファーストを中心とした「物理進化同盟」。
こちらにも数千人の支持者が集まっていた。
感染症患者、重傷者、そして「人間のまま強くなりたい」と願う若者たち。
「私たちは肉体を捨てない!」
エレナが力強く演説していた。
「遺伝子改造、ナノマシン、サイボーグ化…これらの技術で、私たちは病気を克服し、老化を止め、物理世界で生き延びる。それこそが人間の尊厳です!」
人々は拳を掲げて歓声を上げた。
彼らの表情には、生への執着と、闘争心が満ちていた。
2. 最初の対立——遺伝子改造を拒否する者たち
しかし、すべての人が明確に選択できるわけではなかった。
医療テントで、ある母親が医師と口論していた。
「娘にナノマシン治療を受けさせるつもりはありません!」
母親は必死に叫んだ。
「それは人間を変えてしまう。娘は人間のままでいてほしいんです!」
医師が冷静に答えた。
「しかし、お嬢さんの感染症は重症です。通常の治療では助かりません。ナノマシンなら確実に治せます」
「でも…」
「選択してください。娘さんを『人間のまま』死なせるか、『新人類として』生かすか」
母親は泣き崩れた。
究極の選択だった。
別のテントでは、若い男性が奈々子に懇願していた。
「先生、僕を意識転送してください。この世界に未来はない。アクシオムで新しい人生を始めたいんです」
しかし、奈々子は首を振った。
「あなたはまだ若い。健康で、生きる力がある。意識転送は、本当に肉体の限界に達した人のためのものです」
「でも、この世界で生きる意味がわからない!」
男性は激しく叫んだ。
「毎日が絶望だ。火山灰、疫病、食料不足…いつ死ぬかわからない。ならば、今すぐアクシオムに行った方がマシだ!」
奈々子は深く考え込んだ。
この若者の絶望は、多くの人々が感じているものだった。
3. 食料危機の本格化——第六の難「飢饉」
そして、予言通り、第六の難が現実化し始めた。
【NHK緊急ニュース速報】
「農林水産省は本日、深刻な食料危機を発表しました。富士山噴火による火山灰で、関東・中部地方の農地が壊滅的な被害を受けています」
「また、海洋汚染により漁業も大打撃。さらに、国際情勢の悪化により、食料輸入も大幅に減少しています」
「政府は全国民に配給制を発令しましたが、現在の備蓄では2週間分しかありません」
横田基地の食堂。
配給される食事は、日に日に減っていった。
最初は三食だったものが、二食になり、一食になった。
そして、その一食も、わずかな米と野菜スープだけ。
「もう限界だ…」
避難民の一人が呟いた。
「子供が泣いている。お腹が空いたって。でも、何も与えられない」
別の男性が言った。
「テラ・ファーストの『新人類』になれば、食料はほとんど必要なくなるらしいぞ。ナノマシンが栄養を効率的に吸収して、少量の食事で生きられるって」
「本当か?」
「ああ。俺の友人が改造を受けたが、一日に小さなエネルギーバー一本で十分だって言ってた」
人々の間で、新たな選択が囁かれ始めた。
飢えから逃れるために、「新人類」になる——
それは生存戦略として、極めて合理的だった。
4. エレナの提案——「効率的な人類」への進化
エレナは基地の司令室で、緊急提案を発表した。
「食料危機を解決する方法があります」
画面には、驚くべきデータが表示された。
【新人類の食料効率】
- 通常の人間:一日2000キロカロリー必要
- 新人類(ナノマシン投与):一日500キロカロリーで十分
- 新人類(完全サイボーグ化):一日100キロカロリー(エネルギー補給のみ)
「つまり、人口の半分が新人類化すれば、食料消費は75%削減できます。備蓄は2週間ではなく、2ヶ月持つようになります」
司令官が驚愕した。
「しかし、それは…人々を強制的に改造するということですか?」
「いいえ。志願者のみです。ただし、志願者には優先的に食料が配給されます」
「それは事実上の強制だ!」
エレナは冷静に答えた。
「生き延びるための選択です。倫理を語っている余裕はありません」
5. 奈々子の反論——「生きる意味」とは何か
奈々子はエレナの提案を聞いて、強く反対した。
「エレナさん、それは間違っています」
「何が間違っているのですか?」
「あなたは人々を『効率的な機械』に変えようとしている。しかし、人間の価値は効率性だけではありません」
奈々子は立ち上がった。
「食べることは、単なるエネルギー補給ではない。家族と食卓を囲み、味わい、語り合う…それが人間の営みです。それを失えば、私たちは何のために生きるのですか?」
エレナが反論した。
「では、あなたの『意識転送』はどうなのですか?肉体そのものを捨てるのに、食事も家族も何もかも失うじゃないですか」
「いいえ、違います。意識は永遠に続き、アクシオムでは新しい形の交流が生まれます」
「証明できますか?転送された山田さんの『声』が本当に彼の意識なのか、それともただのデータの残響なのか、誰も確認できていないでしょう」
奈々子は言葉に詰まった。
確かに、エレナの指摘は正しかった。
山田さんの声は聞こえたが、それが本当に彼の意識なのか、科学的に証明することはできなかった。
6. 人々の選択——飢えか、変容か
その夜、基地では重大な決定が下された。
「志願者には、新人類化処置を提供する。ただし、処置を受けた者には優先的に食料を配給する」
このアナウンスが流れた瞬間、第二格納庫に長い行列ができた。
飢えに苦しむ人々が、次々と志願していった。
「子供のために…」
「生き延びるために…」
「人間のままで死ぬより、新人類として生きる方がマシだ」
一週間で、志願者は1万人を超えた。
一方、第一格納庫では、静かな祈りの集会が開かれていた。
「私たちは肉体の苦しみを受け入れます」
老僧が静かに語った。
「飢えも、痛みも、すべては肉体の幻想です。意識さえ保てば、私たちは永遠に生きる」
しかし、その集会に参加する人数は、日に日に減っていった。
理想は美しい。
しかし、現実の飢えは、理想よりも強かった。
7. 謎の第三勢力——「最終兵器」の起動準備
同じ頃、東京の地下深く。
謎の第三勢力が、秘密裏に計画を進めていた。
「奈々子とエレナは、互いに対立している。これは好機だ」
黒いスーツの男が、モニターを見つめていた。
画面には、富士山の地下深くに眠る巨大な施設が映し出されていた。
「これが『龍脈共鳴装置』——七百年前に封印された最終兵器だ」
別の男が説明した。
「日蓮大聖人の時代、この装置は『人類を一つに統合する』ために設計された。しかし、あまりにも危険すぎるため、封印された」
「どう危険なのだ?」
「この装置を起動すれば、地球上のすべての人間の意識が強制的に『融合』される。個人の意識は消滅し、一つの巨大な集合意識になる」
男たちは顔を見合わせた。
「つまり、人類全体が『一つの存在』になる?」
「その通りだ。意識転送も新人類化も必要ない。全人類が瞬時に『超越』する」
「しかし、それは個人の選択を奪うことになる」
「構わない」
リーダーらしき男が冷酷に言った。
「人類は選択を誤る。奈々子の意識転送は実験段階で、エレナの新人類化は格差を生む。どちらも不完全だ。ならば、我々が強制的に人類を『統一』する」
「起動準備はいつ完了する?」
「あと3週間。富士山の地下深くで、最終調整を行っている」
8. 「時の管理者」からの警告——第七の難「内乱」
その夜、奈々子のスマートフォンに再びメッセージが届いた。
【メッセージ】
奈々子へ。
第六の難:飢饉が本格化している。予想通りだ。
そして、間もなく第七の難:内乱が始まる。
人々は食料を奪い合い、意識転送派と新人類派が衝突する。 さらに、第三の勢力が動き出している。
彼らは『龍脈共鳴装置』を起動しようとしている。 それは危険だ。人類の選択を奪い、強制的に統合する。
奈々子、エレナと協力せよ。 二つの道を用意し、人々に選択させるのだ。 強制は許されない。
時間がない。あと5ヶ月と2週間。
奈々子は震えながらメッセージを読んだ。
第三の勢力——「龍脈共鳴装置」——
それは何を意味するのか。
彼女は急いでエレナのもとへ向かった。
9. 奈々子とエレナの再会——共通の敵
第二格納庫。
エレナは新人類化処置の準備をしていた。
「エレナさん!」
奈々子が駆け込んできた。
「大変なことが起きています。第三の勢力が、『龍脈共鳴装置』を起動しようとしているんです」
「龍脈共鳴装置?」
「七百年前に封印された装置です。それを起動すれば、全人類の意識が強制的に融合されるそうです」
エレナの表情が変わった。
「それは…私たちの計画をすべて無にする」
「その通りです。だから、協力してください」
奈々子はエレナの手を取った。
「私たちは思想が違う。でも、『人々の選択を守る』という目的は同じはずです」
エレナは深く考え込んだ。
そして、ゆっくりと頷いた。
「…わかりました。協力しましょう。第三勢力を止めるために」
二人は握手を交わした。
意識転送派と新人類派——
相反する思想を持つ二人が、再び手を結んだ。
共通の敵——人類の選択を奪おうとする者たち——に対抗するために。
10. 内乱の始まり——食料をめぐる争い
しかし、その夜、恐るべき事態が発生した。
基地の食料倉庫に、武装した避難民の集団が侵入した。
「食料をよこせ!」
「子供が飢えているんだ!」
警備兵が制止しようとしたが、群衆は止まらなかった。
銃声が響いた。
誰かが発砲したのだ。
パニックが広がり、人々は食料を奪い合った。
その混乱の中で、意識転送派と新人類派の支持者たちも衝突した。
「お前たちは人間を捨てた裏切り者だ!」
意識転送派の若者が、新人類派の男性に殴りかかった。
「お前たちこそ、現実から逃げているだけだ!」
新人類派の男性が反撃した。
乱闘が広がり、基地は無法地帯と化した。
司令室で、奈々子とエレナは絶望的な光景を見つめていた。
「第七の難…内乱が始まった」
奈々子が呟いた。
エレナが厳しい表情で言った。
「もう時間がない。私たちは決断しなければならない」
「決断?」
「富士山の地下に向かいます。『龍脈共鳴装置』を破壊するために」
奈々子は頷いた。
「わかりました。一緒に行きましょう」
二人は立ち上がった。
人類の未来をかけた、最後の戦いが始まろうとしていた。



















