【タイの田舎の小さな家から】立正アクシオム論 —最後の鎖国と人類転生計画—第19話 火山の冬——そして人類最後の選択

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1. 連鎖噴火の開始——アラスカ・レッドアウト火山

ハワイ・マウナロア噴火から一週間後。

予言通り、アラスカのレッドアウト火山が噴火した。

【CNN速報】

「アラスカ・レッドアウト火山が大規模噴火を開始しました。噴煙の高さは成層圏を突き抜け、約30キロメートルに達しています」

「アラスカ全域に火山灰警報が発令され、住民は緊急避難中です。また、北米西海岸にも火山灰が到達する見込みです」

横田基地の司令室。

奈々子とエレナは、衛星映像を見つめていた。

画面には、真っ赤なマグマと黒い噴煙を吐き出すレッドアウト火山が映し出されていた。

「二つ目…」

奈々子が呟いた。

「次は三週間後、インドネシアのクラカタウ火山」

エレナが冷静に言った。

「そして最終的にイエローストーン。それが噴火すれば、北米大陸は壊滅し、世界中が火山の冬に覆われる」

チャイ教授が深刻な表情で報告した。

「既に大気中の火山灰濃度が上昇しています。太陽光が遮られ始めており、地球全体の気温が低下し始めました」

「どれくらい低下するのですか?」

「現在の予測では、今後3ヶ月で平均気温が5度低下。イエローストーンが噴火すれば、さらに10度低下します」

奈々子は震えた。

15度の気温低下…それは地球を氷河期に突入させる。

2. 世界各地の混乱——食料危機の深刻化

気温低下の影響は、すぐに現れた。

【ヨーロッパ】

10月だというのに、ヨーロッパ全域に雪が降り始めた。

農作物は凍結し、収穫は絶望的になった。

「これは異常だ…10月に雪だと?」

フランスの農家が呆然と立ち尽くしていた。

畑一面が白く覆われ、作物は全滅していた。

【アフリカ】

赤道直下のアフリカでさえ、気温が急激に低下していた。

熱帯地域の人々は寒さに慣れておらず、多くの人が凍死し始めた。

「毛布をくれ…子供が凍えている」

難民キャンプでは、暖房設備がなく、人々は焚き火で暖を取っていた。

【アジア】

中国、インド、東南アジア…すべての地域で農業が壊滅的な被害を受けていた。

「食料備蓄は、あと1ヶ月分しかありません」

各国政府は絶望的な状況を報告していた。

「輸入も途絶えています。海運も航空輸送も、火山灰で麻痺しています」

世界中で、飢餓が現実のものとなっていた。

3. 人類救済作戦の加速——毎日10万人の選択

この状況を受けて、世界各国は人類救済作戦を加速させた。

【プロジェクト・アクシオム】

世界各地の意識転送施設は、24時間体制で稼働していた。

毎日、数万人が意識転送を選択していった。

横田基地の第一格納庫では、100台の意識転送装置が同時稼働していた。

「次の方、どうぞ」

奈々子の声は疲れ切っていた。

彼女は毎日、数百人の意識転送を監督していた。

装置が青白い光を放ち、一人の人間が静かに息を引き取る。

「転送完了。成功率:69%」

また一つの意識が、アクシオムへと旅立った。

しかし、31%は消滅していた。

奈々子の心は、日に日に重くなっていった。

【プロジェクト・テラノヴァ】

新人類化施設も、24時間体制で稼働していた。

毎日、数万人が新人類化を選択していった。

横田基地の第二格納庫では、200台の手術台が同時稼働していた。

「次の患者、準備完了」

エレナの指示が飛び交う。

ナノマシン投与、遺伝子改造、神経接続装置の埋め込み…

次々と人々が「新人類」へと変容していった。

しかし、処置後の人々の表情には、以前のような温かさが失われていた。

エレナもそれに気づいていた。

「私は…何を生み出しているのだろう」

彼女は自分の手を見つめた。

自分自身も新人類になった彼女には、もはや感情的な揺れは少なかった。

しかし、わずかに残った「人間性」が、罪悪感を感じさせていた。

4. 意外な展開——新人類たちの独自行動

そして、予期しない事態が発生した。

新人類化した人々の一部が、独自の行動を始めたのだ。

【新人類コミュニティの形成】

世界各地で、新人類たちが集まり、独自のコミュニティを形成し始めた。

「私たちは、もはや旧人類とは異なる」

新人類のリーダー格の男性が宣言した。

「私たちは優れた身体能力、知能、そして効率性を持っている。ならば、私たちが人類の未来を導くべきだ」

この発言は、旧人類との新たな対立を生んだ。

横田基地でも、新人類化した人々が第二格納庫に集まり、独自の集会を開いていた。

「旧人類は非効率だ」

ある新人類が冷静に語った。

「彼らは感情に振り回され、非論理的な選択をする。食料を無駄に消費し、社会の負担になっている」

別の新人類が続けた。

「意識転送を選んだ者たちは、もはや存在しない。30%は消滅し、残りもアクシオムで何をしているか不明だ。ならば、新人類こそが地球の真の継承者だ」

エレナはこの集会を密かに聞いていた。

彼女は震えた。

「私が生み出したのは…新たな階級社会なのか」

新人類たちは、確かに生存能力が高い。

しかし、彼らは旧人類を見下し始めていた。

これは、エレナが望んでいた未来ではなかった。

5. 奈々子の苦悩——アクシオムからの沈黙

一方、奈々子も深刻な問題に直面していた。

アクシオムからの応答が、日に日に弱くなっていたのだ。

「教授、これを見てください」

チャイ教授にモニターを見せた。

「転送された意識からの応答が、ほとんど途絶えています」

「どういうことだ?」

「わかりません。最初の数週間は、転送された人々から『アクシオムは美しい』『新しい人生が始まった』というメッセージが届いていました。しかし、今は…沈黙です」

奈々子は震えた。

「もしかして…アクシオムで何か起きているのでしょうか」

「可能性はあります。しかし、確認する方法がありません」

その夜、奈々子は「時の管理者」に直接メッセージを送った。

【奈々子からのメッセージ】

時の管理者へ。

アクシオムからの応答が途絶えています。 転送された人々は無事なのですか? 真実を教えてください。

数時間後、返信が届いた。

【時の管理者からの返信】

奈々子へ。

アクシオムは試練の場だ。 転送された意識は、新しい形の存在として再構築される。 しかし、その過程で『自己』を失う者もいる。

沈黙している者たちは、まだ『適応』の途中だ。 彼らは苦しんでいる。しかし、それもまた進化の一部だ。

成功した者たちは、やがて新しい文明を築く。 失敗した者たちは…消滅する。

これは残酷な真実だ。しかし、これが進化の本質なのだ。

奈々子、恐れるな。 あなたは正しいことをしている。

奈々子は涙を流した。

「苦しんでいる…」

自分が送った人々は、アクシオムで苦しんでいるのだ。

彼女は深い罪悪感に苛まれた。

6. エレナとの再会——二人の告白

その夜、奈々子とエレナは再び基地の屋上で会っていた。

二人とも、疲れ切った表情をしていた。

「エレナさん…私たちは間違っていたのでしょうか」

奈々子が静かに尋ねた。

エレナは長い沈黙の後、答えた。

「わからないわ。でも、私たちは後戻りできない」

「新人類たちが、旧人類を見下し始めています」

「知っているわ。私が生み出した『優れた人類』は、同時に『差別する人類』でもあった」

二人は沈黙した。

やがて、エレナが口を開いた。

「奈々子、正直に言うわ。私は後悔している」

「エレナさん…」

「新人類化した人々の一部は、確かに人間性を失っている。彼らは効率的で、強く、知的だ。でも…温かさがない」

エレナは自分の胸に手を当てた。

「私自身も感じるわ。新人類になってから、感情が薄れている。怒りも、悲しみも、喜びも…すべてが遠くなった」

奈々子はエレナの手を握った。

「でも、あなたはまだ後悔できる。それは人間性が残っている証拠です」

エレナは涙を流した。

新人類化してから初めての涙だった。

「ありがとう、奈々子…」

二人は抱き合った。

それぞれが異なる道を提示し、それぞれが罪悪感を抱えている。

しかし、二人は理解し合っていた。

7. インドネシア・クラカタウ火山噴火——火山の冬の本格化

そして、予言通り——

4週間後、インドネシアのクラカタウ火山が噴火した。

【NHK緊急ニュース速報】

「インドネシア・クラカタウ火山が大規模噴火を開始しました。1883年の大噴火を超える規模とみられ、噴煙は成層圏を突き抜け、約40キロメートルに達しています」

「インドネシア全域が壊滅的な被害を受けており、津波も発生しています。周辺国にも避難勧告が発令されました」

この噴火により、「火山の冬」が本格化した。

大気中の火山灰濃度は臨界点に達し、太陽光は完全に遮られ始めた。

世界各地で、昼間でも薄暗い状態が続くようになった。

気温は急激に低下し、平均気温は10度下がった。

【世界各地の状況】

ヨーロッパ: 11月だというのに、マイナス10度を記録。暖房設備のない地域では、凍死者が続出。

アフリカ: 赤道直下でも気温が10度を下回り、熱帯植物が枯れ始めた。

アジア: 農業は完全に停止。食料備蓄は底をつき、飢餓が深刻化。

アメリカ: 西海岸は火山灰で覆われ、東海岸も気温低下で混乱。

世界中で、パニックが広がった。

「もう終わりだ…」

「地球が死につつある」

人々は絶望に沈んでいった。

8. 緊急世界会議——最後の決断

国連本部で、再び緊急世界会議が開かれた。

各国の首脳、科学者、そして奈々子とエレナも参加した。

国連事務総長が厳しい表情で語った。

「諸君、地球はもはや居住不可能になりつつあります。我々に残された時間は、あと3ヶ月です」

「イエローストーンの噴火は、いつですか?」

アメリカ大統領が尋ねた。

「地質学者の予測では、あと6週間です」

全員が絶句した。

6週間…

あと6週間で、地球は完全に終わるのか。

中国主席が立ち上がった。

「我が国は既に、国民の50%を新人類化しました。残りの人々も速やかに処置を進めます」

ロシア大統領が続けた。

「我が国は意識転送を推進しています。既に国民の30%が転送を完了しました」

インド首相が声を荒げた。

「しかし、どちらも不完全だ!新人類は人間性を失い、意識転送は成功率が70%以下だ!」

会議は再び紛糾した。

その時、奈々子が立ち上がった。

「皆さん、聞いてください」

彼女の静かだが強い声が、会議場を静めた。

「私たちに完璧な解決策はありません。どの道もリスクを伴います」

「では、どうすればいいというのか」

「選択を急ぐのです。一人でも多くの人々に、意識転送か新人類化を選んでもらう。そして…」

奈々子は深呼吸をした。

「私とエレナも、最後の選択をします」

全員が驚いた。

「何?」

「私は意識転送を選びます。そしてエレナさんは既に新人類です。私たちは、それぞれの道を体現します」

エレナが立ち上がった。

「そして、私たちは世界中に呼びかけます。あと6週間で地球は終わる。だから、今すぐ選択してほしいと」

9. 世界への呼びかけ——最後のメッセージ

翌日、奈々子とエレナは世界中に生中継されるメッセージを発信した。

画面には、二人が並んで立っている姿が映し出されていた。

奈々子が最初に語った。

「世界中の皆さん、私は佐藤奈々子です。私はこれから、意識転送を選択します」

「なぜなら、私は肉体の限界を超えたいからです。アクシオムで新しい人生を始めたいからです」

彼女は深呼吸をした。

「意識転送にはリスクがあります。30%は失敗します。そして、アクシオムでの生活は試練に満ちています」

「しかし、私はこの道を選びます。なぜなら、それが私の信念だからです」

次に、エレナが語った。

「私はエレナ・ヴォルコフです。私は既に新人類化しました」

「なぜなら、私はこの地球で生き延びたいからです。物理的に強化された身体で、火山の冬を乗り越えたいからです」

彼女は自分の手を見つめた。

「新人類化にもリスクがあります。人間性を失う可能性があります。感情が薄れ、温かさが消えるかもしれません」

「しかし、私はこの道を選びました。なぜなら、それが私の信念だからです」

二人は手を取り合った。

「どちらの道も、リスクを伴います」

奈々子とエレナは同時に語った。

「しかし、選択しなければ、全員が死にます」

「あと6週間で、イエローストーンが噴火します」

「それまでに、あなたの選択をしてください」

「意識転送か、新人類化か、それとも自然のままか」

「選ぶのは、あなた自身です」

「私たちは、それぞれの道を体現します」

「だから、恐れずに選んでください」

二人は深く頭を下げた。

「人類の未来は、一人一人の選択にかかっています」

このメッセージは、世界中に衝撃を与えた。

そして——

人々は動き始めた。

意識転送施設にも、新人類化施設にも、かつてない数の人々が殺到した。

人類最後の選択が、加速していった。