初めに
西野順治郎さんの著書『タイの大地と共に ―星霜(せいそう)移り変わる半世紀』は、1996年12月に日経事業出版社より出版されています。
当時、西野さんは79歳でした。
その5年前、74歳ですべての公職を退き、自由な時間を得たことをきっかけに、本書の執筆に取り組み、人生の一区切りを記したものと思われます。
本書には、短編小説として「メナム―1945年」が収録されています。 これはすでに10年ほど前に、角川書店の月刊誌『野生時代』で発表された作品です。
また後半には西野さんの自叙伝が記され、加えて折々の思いを綴った随筆も含まれており、全体が構成されています。
この作品は、西野さんが72歳のときから、およそ5年の歳月をかけて書き上げたものです。
執筆にあたっては、タイに長く住んでいる石井良一(74)さんからコンピューターの操作方法を学んでいます。
72歳でコンピューターに初めて触れたため、教える側も苦労したと石井さんは語っていました。
コンピューターを使ったことで原稿の修正が容易になり、出版社とのやり取りもスムーズに進んだようです。
本の発行後、著者は西野さんからこの進呈本をいただきました。
その際、「このような記念すべき本を発行されたのだから、出版記念会を開いてはどうですか」と提案しました。
それに対して西野さんは、「うんうん」とうなずき、チャイチャーイ(※注:消極的でもなく積極的でもない様子)な反応を見せました。
しばらくして、西野さんから開催日時と会場が記された手紙が届きました。
記念会は、そごうデパートの日本人取締役の日本人が主催で実現しました。
つまり、西野さんは著者の提案をそごうの取締役に伝え、協力を得て開催にこぎつけたのです。
当時、西野さんはそごうの社外取締役に就任していました。
日本大使館の太田 博大使も出席され、約50名の方々が集まり盛大に記念会が行われました。
この会は、西野さんにとって最後の公的な行事となり、その5年後に永眠されています。
本書の序文には「西野さんの本に寄せて」と題した、作家で元文化庁長官の三浦朱門さん(曽野綾子さんのご主人)による寄稿文が掲載されています。以下に
紹介します。
タイの大地と共に
西野さんは、タイに関係する日本人の“ヌシ”みたいな人である。
タイでの生活が長いばかりでなく、その体験は戦前と戦後に渡っており、大別して戦前は外務省、戦後は企業で、そのタイ語とタイでの経験を磨き、日タイの親善に貢献した。
戦前は政府、戦後は民間というのは、それぞれの時代で重要な場所だった。
戦前の日本は国家主義的な傾向があって、政府に関係していないと、何もできなかった。
(次回号に続く)
2026年6月5日 タイ自由ランド掲載
