タイ自由ランド AI

【タイの田舎の小さな家から】立正アクシオム論 —最後の鎖国と人類転生計画—第9話 蓮華への旅立ち

読了時間 1未満

 

 

バンコクの朝陽が寺院の黄金の仏塔を照らす中、奈々子は人生最大の決断を迫られていた。ワット・ポー寺院の僧侶たちから告げられた真実は、彼女の世界観を根底から覆すものだった。

「七百年前から続く計画」「選ばれし者」「人類の未来」…これらの言葉が彼女の脳裏を駆け巡っている。

住職の老僧が、奈々子の前に古い地図を広げた。そこには東南アジア全域が描かれ、ラオスの山奥に小さな印が付けられていた。

「蓮華…」奈々子は呟いた。

「はい。七百年前、日蓮大聖人の弟子たちがひそかに建設した秘密の修行施設です。そこで、あなたは『意識転送』の準備を行うことになります」

チャイ博士が心配そうに口を開いた。

「しかし、危険すぎます。日本政府の追跡部隊だけでなく、『テラ・ファースト』という組織も動いているという情報があります」

住職の表情が険しくなった。

「テラ・ファースト…物理的進化にこだわる愚かな者たちです。彼らは人類の真の進化を阻止しようとしています。肉体の改造と遺伝子操作によって、地球に留まることを主張している」

奈々子は初めて聞く組織名に困惑した。

「彼らも古文書のことを?」

「残念ながら、はい。彼らは独自のルートで日蓮の予言を知り、それを阻止しようと動いています。『アクシオム』への意識転送を『人類の堕落』と見なしているのです」

その時、奈々子のスマートフォンに緊急ニュースの通知が入った。画面には衝撃的な文字が踊っていた。

「東京湾北部地震、マグニチュード7.2発生」 「首都圏で大規模停電、交通機関全面停止」 「政府機能完全麻痺、自衛隊が治安維持に出動」

住職が厳粛な表情で頷いた。

「第二の難『天変地異』の始まりです。地震、そして間もなく津波が来るでしょう」

チャイ博士が慌ててニュースサイトを確認する。リアルタイムで更新される被害状況は、まさに日蓮の予言通りだった。

「『地は裂け、海は荒れ、人は散る』…本当に現実になっている」

奈々子は決意を固めた。もはやこれは学術的興味の域を超えている。人類の運命がかかった使命なのだ。

「ラオスに行きます。『蓮華』で修行を受けます」

住職が安堵の表情を浮かべた。

「賢明な判断です。しかし、旅は危険に満ちています。陸路でラオスに向かいますが、複数の勢力があなたを狙っているでしょう」

その時、寺院の外から異様な音が聞こえてきた。ヘリコプターの回転音だった。しかも複数機。

「早すぎる」住職が呟いた。「彼らはもう気づいている」

チャイ博士が窓から外を覗くと、寺院の周囲を黒いSUVが取り囲んでいるのが見えた。

「日本政府の追跡部隊です。奈々子さん、すぐに裏口から」

だが住職が首を振った。

「いえ、彼らは日本政府ではありません。車両の装備を見てください。軍事グレードの武装車両です。これは『テラ・ファースト』の実行部隊です」

奈々子の血の気が引いた。ついに敵対勢力が動き出したのだ。

住職が立ち上がり、隠し扉を開いた。

「地下通路があります。メコン川の船着場まで続いています。そこから高速艇でラオスへ向かいなさい」

古文書を胸に抱いた奈々子が立ち上がろうとした時、寺院の正面から爆音が響いた。彼らが強行突入を開始したのだ。

「急いで!」

三人は地下通路へと駆け込んだ。七百年前の秘密が、現代の高度な武装勢力との追跡劇に発展していく。奈々子は走りながら思った。これは単なる冒険小説ではない。人類の進化をかけた、壮大な戦いの始まりなのだと。

地下通路の向こうに、メコン川の水面が見えてきた。そして、そこには既に高速艇が待機していた。船頭は若い僧侶で、彼もまた「蓮華計画」の一員なのだろう。

「奈々子様、チャイ博士、お急ぎください」

三人が艇に飛び乗ると同時に、後方から銃声が響いた。テラ・ファーストの部隊が地下通路を発見したのだ。

高速艇はメコン川を上流へと向かった。ラオスの秘密施設「蓮華」への危険な旅路が、今始まろうとしていた。

奈々子は振り返り、バンコクの街並みを見つめた。平和だった研究生活は終わった。これからは人類の未来を背負う、選ばれし者としての人生が始まるのだ。

 

 
 
https://kakuyomu.jp/works/16818792440126947393
モバイルバージョンを終了