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【タイの田舎の小さな家から】立正アクシオム論 —最後の鎖国と人類転生計画—第4話 SNSで拡散する予言

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その夜、奈々子は自分のアパートに戻ると、チャイ博士から得た情報を整理するため、ノートパソコンを開いた。しかし、画面に表示されたのは想像もしていなかった光景だった。TwitterやInstagram、FacebookといったSNSプラットフォームで、「#立正アクシオム」のハッシュタグが世界的にトレンド入りしていたのである。

奈々子は驚愕した。彼女がこの謎の古写本について誰にも話していないはずなのに、なぜこのハッシュタグが拡散しているのか。投稿内容を詳しく見ると、そのほとんどが断片的で意味深な文章だった。

「七難の第四波、迫り来る。備えよ、選ばれし者たち」 「アクシオムの座標、ついに解読完了。転送開始まであと19年7ヶ月」 「日蓮大聖人の真の預言、今こそ明かされる時」

これらの投稿は世界各国の言語で書かれていたが、すべてに共通する内容があった。それは「意識転送技術」と「アクシオム惑星への人類移住計画」についての言及だった。まるで、何者かが組織的に情報をリークしているかのようだった。

奈々子は急いでチャイ博士に電話をかけた。

「チャイ博士、大変なことが起きています。SNSで『立正アクシオム』が世界的に話題になっているのです」

「本当ですか?私も今、同じことを発見したところです。これは尋常ではありません。誰がこの情報を流しているのでしょうか?」

翌朝、東京の内閣官房では緊急対策会議が招集されていた。出席者は官房長官、内閣情報調査室長、サイバーセキュリティ戦略本部の幹部たち。議題は一つ、SNSで急速に拡散している「立正アクシオム現象」への対処だった。

「現在、Twitter上で『#立正アクシオム』の投稿数が一時間に五万件を超えています。内容はすべて政府の機密計画に関連するもので、情報漏洩の可能性が極めて高い」

サイバーセキュリティ担当官の報告に、会議室の空気が一層重くなった。

「発信源の特定は可能ですか?」

官房長官の問いに、担当官は困った表情で首を振った。

「それが問題なのです。投稿者のIPアドレスは世界中に分散しており、しかも使用されているアカウントはすべて実在しない人物のものです。まるでAIが自動生成しているかのような……」

その時、一人の幹部が重大な報告をした。

「さらに深刻な問題があります。これらの投稿に含まれる技術情報の一部は、我々の『アクシオム計画』の最高機密データと完全に一致しています。外部に漏れるはずのない情報が、なぜか正確に投稿されているのです」

会議室に衝撃が走った。政府の最高機密が、見知らぬ投稿者によって世界中に拡散されているという事実。これは単なる情報漏洩を超えた、国家安全保障上の重大な脅威だった。

一方、バンコクでは奈々子がより詳細な調査を行っていた。彼女が発見したのは、投稿内容に隠された暗号のようなパターンだった。

「チャイ博士、この投稿を見てください」

奈々子は画面に表示された一連の投稿を指差した。

「座標17.127, 距離1706, 時間19.58。準備完了の合図を待つ」 「第一段階:政治混乱 ✓ 完了」 「第二段階:天変地異 ✓ 完了」
「第三段階:情報統制 ✓ 開始」 「第四段階:○○○○ → 待機中」

「これらの数字は、すべて我々が発見した古写本の数列と関連があります。『17.127』はアクシオム惑星までの距離、『1706』は発見年を表している可能性があります」

チャイ博士の分析に、奈々子は戦慄した。これは単なる偶然ではない。何者かが七百年前から、この時代のために周到に計画を立てていたのだ。

午後、世界各地で異常な現象が報告され始めた。日本では原因不明の停電が関東地方で発生し、アメリカでは国防総省のコンピュータシステムに不正アクセスがあった。ヨーロッパでは複数の天文台が同時に謎の電波信号を受信している。

そして、最も驚くべきことに、これらの出来事はすべてSNS上で事前に「予告」されていたのである。

「東京時間15:42、関東大停電開始」 ← 投稿時刻:15:39 「ペンタゴン、セキュリティ突破完了」 ← 投稿時刻:侵入の3分前 「星からの信号、受信開始」 ← 投稿時刻:電波検出の1時間前

世界中の情報機関が、この異常事態の分析に追われていた。しかし、投稿者の正体は依然として謎に包まれたままだった。

夕方、バンコクの奈々子のもとに、予期せぬ訪問者が現れた。スーツを着た日本人の男性二人が、丁寧にインターホンを鳴らしている。

「佐藤奈々子様でいらっしゃいますか?日本の外務省から参りました。少々お時間をいただけませんでしょうか?」

奈々子の心臓が高鳴った。ついに政府が動き出したのだ。古写本の発見から始まった彼女の探究が、遂に国家レベルの注目を集めることになったのである。

男性の一人が名刺を差し出しながら続けた。

「我々は『立正アクシオム現象』について調査を行っております。佐藤様がお持ちの資料について、詳しくお話を伺いたいのです。これは国家の安全保障に関わる重要な案件です」

奈々子は写本を胸に抱きしめながら、重大な決断を迫られていることを理解した。この古文書が秘める真実は、もはや個人的な探究を超えて、人類全体の運命に関わる問題となっていたのだった。

バンコクの夜が静かに更けていく中、世界中のSNSでは依然として謎の投稿が続いていた。そして、その投稿の中には、明日起こる出来事の「予告」も含まれていた。人類は果たして、この見えざる存在が仕掛ける壮大な計画に立ち向かうことができるのだろうか。

 
 
https://kakuyomu.jp/works/16818792440126947393
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