探偵物語 こんな依頼がありました 「失踪人」パート③


こんな依頼がありました 「失踪人」パート③

(前号からの続き)
「個人情報の兼ね合いで…」
駅長は言った。
「事件で警察の要請があれば良いのですが」
私とH氏は顔を見合わせ、「やっぱりね』とアイコンタクトを送り合った。
それでも本当に人命がかかっているのかも知れない話なのだ。このまま帰るのは後ろ髪引かれる。
それでも、これを言うのが精一杯だった。
「じゃあ、後々結果をお楽しみに」…なんて嫌な人間なのだろうかと自分を呪った。
もちろん、駅長の顔は言うまでもなく、今にも塩を撒きそうな顔だ。私とH氏はだまって駅を出た。
「これからどうしますか?」
これもまた、H氏の私への慰めの精一杯の言葉である事はわかった。でも、これで諦めるわけにはいかない。
「聞き込みしましょう」私は言った。
「対象者の写真もたくさんあるし、最近の事なので憶えている人もいるかも知れない」
いくら死ぬために来たとしても、ここに来るまでは、まだ『死ぬ』と決めてはいなかったかも知れない。
依頼者によれば、この場所は本人にとって想い出深い、ゆかりのある地だという。最期の決断をする前に、お寺や観光地を巡ったかも知れない。
それに、「自殺の可能性”と自分で言いながら、それ以外の可能性も、実は疑っていたから。
というのも、彼女はある仕事をパートタイマーでやっていたのだが、私はここに来る前に、その会社の社長に電話取材をしている。
― 1日前 ―
「これは…ご家族の方には内密にして欲しいのですが…」
こう、この社長は切り出した。
「もちろんです」私は言った。
「何が原因か。それに、どんな情報でも彼女が失踪する前の事が知りたいだけなのです」
「約束して下さいね」
そう言って彼は続けた。
「私ね…一度、彼女に誘われた事があるんです」
「誘われた?」
「ええ…。つまり、それは…その…」
「まさか…」
「はい。まあ…はっきり、というわけではないけど、間接的に」
少し、どういう事なのか考えた。
「つまり、男女の?」
「たまたまね、仕事の話や…ほら、お孫さんの事とか、相談というほどじゃないけど、普通、世間話の中でそういう話にもなるじゃないですか」
「ええ、ありますね」私は短かく相槌を入れる。
「その時ね。こう彼女は言ったんですよ」
「はい」
「『私、◯◯社長だったら良かったのに…』 って」
「そう、言いましたか…」
「はい。適当にはぐらかしましたけど」
こんな話を社長は語った。
これは何を意味するのだろうか?
そして、私が自分の“自殺説”を疑い始めた理由のひとつは、社長からこんな話を聞いたからだ。
ある日、あるお客様の対応を彼女に頼んだという。
そのお客様は、たまたまスポットで1日だけではあったが、今後、継続の大きなお客様になる予定の方だったという。
その時、彼女は何が用事があって、その日は断ったというが、
「彼女がね…」社長が言った。
「『今日はどうしても無理なのだけど、そのお客様を是非、私に担当させて頂けないでしょうか…』って、そう言って、仕事もやる気マンマンだったのですよ。その彼女が失踪…?最初、失踪したとご家族から聞いた時、とにかく驚いたものです」
この話があったからこそ、この地に来て、可能であれば防犯カメラを見たかった。
彼女は60歳だが見た目も若く、今の旦那の話でも若い時は結構ヤンチャで、暴走族とも関係があったとか、まあ…若気の至りであろうが、そういう一面もあったという事で、社長の話が本当なら、彼女はまだ、『女』でいたかったのかも知れない。
そう考えると、『浮気』 から、男と駆け落ち…という事もあったのか…?
これは防犯カメラに彼女が写っていれば分かる事だ。
とはいえ、まだ彼女が間違いなくここに来たという確証もなく、私の想像だったのだけど…。
私がその確証を得るには、防犯カメラを見れない今、やれる事は聞き込みしかなかった。
(次号へ続く)

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2019年5月20日 タイ自由ランド掲載