探偵物語 こんな依頼がありました 「失踪人」パート⑧


こんな依頼がありました 「失踪人」パート③

(前号からの続き)
「あ。どうも◯◯です。」

担当課の前の廊下にさしかかった時、依頼者が担当官らしき私服警察官に声をかけた。
担当官は急いで通り過ぎるところだったが、声をかけた依頼者に気づいて立ち止まった。

「ああ、どうも。」

「その後の事なんですがね。」

依頼者は担当官に言った。

「あれからどうなったかと思って、今一度相談に来たんですがね。」
すると担当官が、廊下の隅に置いてある椅子を指差して言った。

「まぁ、話を聞きましょう。」

「ここで?」私は強い口調で言った。

「いくらなんでも、ここで立ち話はないでしょう?」

「え?ああ、そうですね…では1階の部屋で…」

担当官は少し気まずそうに廊下を先頭に立って歩き、私たちを案内した。
ふと、依頼者の顔を見て驚いた。

顔を紅潮させている。明らかに怒っているのだ。

「失礼ですよね。」

私は担当官の無礼に怒って当然だと言わんばかりに言った。

が、依頼者は担当官には怒っていなかった。

「担当官を怒らせないで下さいよ!」

「え?」

「今は、一人でも多くの味方が欲しいんですから!」

依頼者は、担当官にきつく言った私に怒っていたのだ。

…嘘だろ?…

だって、失踪人の被害者家族が担当官に遠慮なんかしてどうする?

何もやってくれない警察に、ある種クレームを付けに来たようなもなのだ。それなのに何でこんなに顔を紅潮させているか、理解に苦しむ。

1階で待っていた実次女とおばあちゃんと合流し、担当官の案内で1階の部屋に入った。

部屋に入って各々席についたものの、誰も口火を切る者はいない。

依頼者の態度に腹を立てた私が多くを語らないと決めたからだ。

「それで…?」

口火を切ったのは担当官だった。

「その後は、特に何も進展はないのですよ。」

「そうですか…。」と依頼者。

また沈黙が続く。

「あの…」ため息まじりに、やむなく私が口を開いた。

「捜索願が出てるのだし、ほら…状況は聞いていると思うのですが、やはり事件性はないと?」

「あなたは?」

「このご家族から捜索の依頼を受けた者です。」

「探偵?」

「まぁ、そんなとこです。」

探偵はただの民間人。そんな意識が私にそう言わせたのだろう。

「少し誤解があるようですね…。」

担当官は言って頭をかいた。

すかさず「誤解?」と私は言った。

「何が、どう誤解してるというのです?」

「まあ、聞いて下さい。厳密に言うと、捜索願いというものは存在しないのですよ。」
「え?」
一斉に依頼者家族は声を上げた。正確には私も含む、だ。

私は担当官が何を言っているのか理解できなかった。

担当官は続ける。

「あれ、『家出人の届出』というもので、決して警察が積極的に捜索します、というものではないのですよ。」

「どういう意味ですか?」

「つまり…警察活動という、いわゆる警察官のルールみたいなものがありまして…。皆さんは警察の民事不介入というのをご存知ですよね。」

(次号へ続く)

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2019年8月5日 タイ自由ランド掲載