探偵物語 こんな依頼がありました 「失踪人」パート⑦


こんな依頼がありました 「失踪人」パート③

(前号からの続き)
「なるほど…」H氏は言った。

「所持品を殆ど持って行っていないという事もあるし、尋常な状況ではないですものね。そろそろ良い頃合いかも知れませんね。」

私たちは翌日、◯◯市を後にした。この時の唯一の希望は、奥さんが所持品を持たずに失踪してから2週間以上…警察に捜索願を出してから2週間以上…。警察を動かせるかも知れないという事だけだった。
ところがこの後、この「捜索願」が如何に無力であるかという事を思い知らされるとは想像もしていなかった。

今…アイパッドのオフィス・ワードに残された記録を見て書いている。彼女の1ヵ月を聴き取りして記録したものだ。それを見ながら思い出している。

1日、1日をご家族、おばあちゃん、夫、本人の実次女。彼らに可能な限り思い出してもらって聴き取っていった。聴き取れば聴き取るほどに不思議に思った事を思い出す。
この記録の中には、◯◯市に行く前に聴き取った内容も入力し、その間、間に新しく聴き取った内容を埋めていく。

彼女のパート先の社長の、『あの会話』も入力して埋めていった。

ただし、あの内容は社長の希望もあって、約束通りご家族には伏せるため、最終的に依頼者である夫にレポートとして提出する前に削除した。

とにかく、この時点では削除していない。今、私が見ているのは、提出時に別ファイル名で保存した、『あの内容』も含んだものだ。

不思議だ。この記録を見直してみればみるほどに、ますます彼女か自殺した理由がわからなくなる。
聴き取りした日は、寒さがやや和らいだ天気の良い日だった。この日は、聴き取りだけの目的に依頼者宅を訪れたわけではない。

捜索願を提出した、依頼者宅の最寄り警察署にご家族を連れて行くためでもあった。
何のためか?

無論、警察の協力を得るためであった。ダメ元ではあったが、調査をしていく過程で、これは何か尋常ではない事が起きている…そう感じたから、それを家族を連れて、私が警察に訴えかけたかったからだ。
聴き取りを終えて、依頼者である夫の運転で、おばあちゃんと実次女と私が車に乗り込んだ。

乗り込んだ車は失踪した彼女が主に乗っていた車だった。

全く関係のない話のようだが、車が発進して、私は驚いた。

何に驚いたか?

そう、夫の運転にだ。これがまた、恐ろしいほどに下手くそな運転に。

私は思った…

『まだ、殺されたくない…。』

そうはならなかった。なぜなら、依頼者である夫の運転が酷すぎる事を思い出した本人の実次女が、すぐに運転を代わってくれたからだ。

最寄の警察署は国道沿いにあった。

車を来署者用の駐車スペースに停めて私たちは署内に入った。特に受付はなかったように記憶している。
そういえば、私の事務所の管轄は築地警察だが、築地は必ず受付に立寄り、記名して入っているが、どうやら県警は違うらしい。

階段で2階に上がるのだが、おばあちゃんにはつらいと思い、実次女とおばあちゃんを1階に残し、私と依頼者の2人で2階にあがった。
(次号へ続く)

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2019年7月20日 タイ自由ランド掲載